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M女性がSMを楽しみたい、もっとその世界を知りたいと思っても、なかなかその一歩を踏み出すことは難しいのではないでしょうか? そんな貴女のためのコミュニケーションブログです。

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2.麻美篇 (9) 最終章 ピアス
■子供嫌い

前回、ラスト、僕は麻美に妊娠を告げられました。このことは僕と麻美のSM的生活の大きな転機になると、瞬時に理解しました。これから、いろんなことが大きく変わっていく…。それがわからないほど、子供ではありませんでしたが、寂しくもありました。5年間、二人は濃密に甘く、そして激しく愛し合ってきました。子供ができることで、それが終わりを迎えるのかもしれない…、そんな不安と寂しさが僕の中にはありました。それに…。
正直に言って僕は、子供が大嫌い(笑)。泣く、喚く、反抗する。そういうの我慢できません。だから自分の子供なんて絶対ほしくない! 10代の頃からずっとそう言ってきて付き合っている女を悲しませてきました。まあ所詮、これは自分がガキってことなんですけどね。

「でも、実際生まれると絶対変わるよ~」

とか

「そういうこと言う人ほど親バカになるんだって!」

なんて言われようものなら、

「じゃあ、もしそうならなかったときは、引き取ってくれるか?」

みたいに言い返して

「ひとでなし! 人非人!」

と罵られてきました(笑)。

まあ、歳を取るにつれて、あまりにも評判が悪いので、「子供が大嫌い」ではなく「子供が苦手」という表現で逃げるようになっていましたけどね。

彼女が「産んでもいいかなぁ…」みたいに恐る恐る僕に聞いたのも、僕があまり子供を欲しがってないってことを悟ってのことだったと思います。彼女は子供のことについて、あまりこれまで触れてきませんでした。僕も改めて彼女に聞くことはしなかった。それでも彼女の性格から言って、いい母親になるそんな気がしました。そして、そんな彼女と一緒なら僕もいい父親になる努力ぐらいはできるだろうと思ったのです。

もちろん僕も大人です。当然、彼女と結婚したときに子供のことは覚悟はしていました。でもここで「もう覚悟はできてる!」みたいな言い方をしたら、それはそれで、彼女を悲しませるような気がして、僕は嘘をつきました。

「当たり前だよ。産もうよ。ありがとうな……すごくうれしい」

僕は今まで生きてきていっぱい嘘をついて、後悔していることもいっぱいありますが、この嘘だけは、ついて良かったと今でも思っています。

■子供とSM

彼女は、すごく嬉しそうでした。彼女は僕の膝に座って、僕に抱きつきながら、甘えてきます。

「赤ちゃん、欲しかった…。尚人様の赤ちゃん。でも…麻美、奴隷妻だし、そんなこと望んじゃいけないかな…って思ってた…。ほんと? ほんとに産んでいいの?」

「当り前じゃん。奴隷妻だから何だって言うんだよ。それは変わらないんだろ? 確かに赤ちゃんにオッパイ取られるのはくやしいけど…、一年ぐらいなら貸してやってもいいよ。いろいろ変わっていくのはしょうがないけど、俺達ならちゃんとやっていけるって! 心配するな…」

「うん。寂しい? 大丈夫よ、ちゃんと尚人様のもとに戻ってくるから…。でも、子供が大きくなったら、今みたいな無茶できないのかしら…。ううん、そんなことより尚人様、おばさんになった私を捨てて、若い女に走ったりしない? そのほうが心配…」

麻美は30代になったばかりでしたが、十分に若くてキレイでした。金もそれなりに使っているし、努力もしている、まったく頭が下がる女です。僕は思います。人にもよるでしょうが、女性は自分の外見を磨くために、ものすごい時間と金を使い、情報も集め学習をします。多分、その時間を別のことに使えば、結構いろんなことが出来る。僕はその時間、ずっと自分のために、本を読んだり、仕事をしたり、勉強したり…。人生に何に価値を見出すかは人それぞれですが、オンナであること、オンナでいることを自分に課して、自分のため、あるいは相手のために、努力しているのなら、それはもっと評価されるべきことなのではないかと思います。僕は頭のいい女が好きだし、勉強家の女性も好きですが、それと同じくらいオンナでいるために時間を使っている女性が好きです。

「う~ん、どうかなぁ…。若い女かぁ…。確かに好きかも…。でもなぁ…、また最初から調教して麻美レベルまで作り上げていくそんな気力は、その頃にはなくなっているんじゃないかなぁ…。だから麻美がずっといいオンナでいてくれよ。お願いだ。あんまり母親ぽいところばっかり見せないで、ちゃんと俺の前ではオンナでいてくれな」

「もう…。バカ。ほんとにそんなことばっかり言って、父親になれるのかしら、この人は…。でも大丈夫よ…。麻美はずっと尚人様の甘ったるくてかわいい奥さんで、超セクシー美女妻で、奴隷妻になるって誓ったでしょ? 一度だって裏切ってないもん」


まったく、その通りでした。一度だって、彼女に幻滅したことなんかありませんでした。それでも、子供が小学生、中学生ぐらいになれば、あまり家の中でとんでもないプレイはできないし、週末ふたりでラブホテルとかにいく、そんな夫婦になるのかもしれないなぁ…。そんなことを漠然と考えてしまいました。でも、同時に自分の人生、麻美との人生というもう少し、広くて大きなことを考えれば、それがどれだけ幸せなことか、ふたりはそのこともちゃんとわかっていたのです。僕らは5年以上の月日の中で、そんなパートナーシップを手に入れていました。


■ピアスを外す

妊娠4ヶ月ぐらいになると、胎児がどうやら女の子だということがわかりました。麻美は

「この子もMだったらどうしよう。尚人様みたいな人に逢えなかったら不幸になる…」

なんてバカなことを心配していました。

「SかMかなんて遺伝で決まるかよ。そんな研究聞いたこともない。でも僕はS女になられるよりはいい人生を送れる気がするよ。もしMだったら親子で面倒見てやろうか?」

というと

「やめて~! それだけはやめて~! 人の道を外れるからダメ~!」

と笑いながら我が子を、悪の手から守る母親らしい態度を見せました。

ある日、仕事から戻ってくると、麻美は浮かない顔をしています。「どうした? 病院で何か気になること言われたのか?」と尋ねると、麻美は言いました。

「そろそろ、乳首ピアスを取ったほうがいいらしいの。授乳が始まる前に穴を塞いで、授乳に備えたほうがいいって。これからどんどんオッパイが張って痛くなるかもしれないし…」

(ああ、もうそういう時期なのか。)

僕も一応、父親らしく、麻美が妊娠期間中どういうふうに身体が変化し、胎児がどう成長していくのか、その程度の知識は学習しました。ちなみに乳首ピアスは搾乳・授乳に影響はないと言われています。穴からお乳が漏れたりすることはないそうです。でも赤ちゃんがずっと舐めたり、吸ったり、噛んだりしますので、多少痛かったり、衛生的な面から外したほうがいいとも言われているのです。 僕もそのことはリサーチしていました。もっと以前に

「そろそろ外したほうがいいんじゃないか?」

と彼女に言うと

「まだ、大丈夫…」

と彼女はなかなか外したがらなかったので、彼女に任せていました。彼女がこの5年以上の月日の中で、どれだけそのピアスを眺め、幸せを感じていたか、僕はよく知っていました。ただ外すだけでなく、穴も塞がってしまう…、そのことに母親になることと、僕の妻でいることの狭間で揺れる麻美の気持ちが痛いほどわかりました。

「これは私の宝物です。これは麻美が麻美でいる証です」

麻美がそういって僕の胸の中で泣いていた日のことを思い出します。彼女はそれをつけていることがアイデンティティのすべてだと本気で思っているのです。母親になるという、新しいアイデンティティを受け入れる気持ちは当然あっても、そのピアスにこれまで自分が集約され、オンナとしての矜持みたいなものがあり、乳首ピアスを外すことを許さないのだと僕は思いました。こうなれば、もう仕方がありません。僕は彼女に言いました。

「麻美、命令だ。ピアス取るよ。そして今度、麻美がそれをつけるときは、全部僕がやる。僕が麻美に針を刺して、もう一度、僕の奴隷妻として迎えてあげる。だから、しばらくは赤ちゃんのために母親でいてあげなさい」

麻美は、ただでさえよく泣く女でしたが、妊娠中はもうほんとうにちょっとしたことで泣いてしまいます。

「ほんと? 尚人様の奴隷妻にちゃんと戻してくれる? 今度は全部、尚人様がやってくれる?」

(あ~あ、とんでもない約束しちゃったなぁ…。針で刺すのかぁ…。やだなぁ…。)

「もちろんだよ。麻美は僕の奴隷妻なんだから。約束するよ。いや命令かな…。麻美が嫌がっても無理矢理、奴隷妻に戻して僕のためだけに尽くさせる」

「うん、はい、麻美は必ず戻ります。今度、麻美にピアスをするときは、絶対尚人様にやっていただきます。それが私の幸せです。…お願いします」

こうやって麻美の乳首から僕はピアスを取り外し、やさしく彼女の乳首にキスをして、彼女を抱きしめました。麻美はずっと寂しそうに、僕に甘えていました。




さて、ついにここまで書いてしまいました。もう実際、チャットなどで何人かの方々とはお話ししてますし、このブログのプロフィールにもそれとなく書いてあるので、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、僕も正直、この後のことは、書くのが辛いです。お話しした方の中には、「この先の話は読みたくない」と仰る方もいます。その気持ちもよくわかります。ここは楽しいSMコミュニケーションサイトです。この先にはその意味では場違いなことが書いてあります。ですから、読みたくないと思う方はどうぞこの先のエピローグまで飛ばしてください。→ここをクリック■エピローグまで飛ぶ

できるだけ、さらっと…書き進めたいですね。それじゃ再開します。


■インフォームドコンセント

妊娠5ヶ月ぐらいのとき、体調が悪いと訴えた麻美を病院に連れて行き、検査をしてもらったところ、スキルスが見つかった。呼び出され、医者からの説明を僕はひとりで聞きました。そして進行が早く手術はもうできない、と言われた。

人工流産をさせて化学療法をするのが一般的だが、その結果は3ヶ月の余命がすこし延びる程度、もしくは化学療法などをいっさいせず、胎児をこのままおなかの中で育てて、ぎりぎりのところで取り出して赤ん坊を救うか……その場合の母体の生存確率は……、胎児の生存確率は……。

僕は、一生懸命説明してくれるドクターを見ながら思いました。一生懸命だな、でも敢えて感情を介さずに、事務的に、それでいて親身に、そんな風にインフォームドコンセントをするトレーニングを受けているんだろうなぁ…なんてことを漠然と思いながら話を聞いていた。

「……ということになります。どういう選択をされるか、奥さんとよく相談をしてください」

(え? 選択? こういうのって選択なのか?)

僕はそんな風に感じた。僕はもう、そのとき解っていました。こんなのは選択でもなんでもない。そして彼女にそれを告げれば、彼女がどうするかも解っていた。

僕は、検査入院をしている麻美の病室にノックして入り、彼女に説明を始めました。僕はずっと麻美を抱き寄せて彼女が泣かないように、怯えないように、怖がらないように、一生懸命彼女を支えながら喋り続けました。なのに彼女は言いました。

「尚人様、泣かないで…。尚人様、泣かないで…」

僕が泣いていました。いつの間にか、僕が彼女にすがって泣いていました。麻美は僕を抱きしめ、やさしく頭を撫でながらいいました。

「なんか、そんな気がしてた…。私、幸せすぎたもん。おかしいと思った。ごめんね…尚人さま~。麻美、尚人様悲しませたくないのに、こんなことになっちゃって…、ごめんね」

「やめてよ…。そんなこと言うなよ。麻美と生きたいよ。一緒にいてよ…、やだよ…」

僕は臆病者です。彼女の顔を見ることが出来ませんでした。きっと泣いていたのに…。

ひとしきり泣いた後、ふたりはドクターのもとに戻って、今後のことを話し合いました。そこで彼女はきっぱりと言いました。

「治療はしません。出産を優先させます」


■ヨブ記

妊娠8ヶ月ぐらいまで、彼女は自宅にいました。でもさすがにいろいろ状態も悪化し、いざというときは陣痛を促進させて、出産してしまわないと危ないということになり、明日から入院という日のことです。彼女がもうこの家に帰って来れないことはわかっていました。僕もこの日は、麻美についてやりたくて、仕事が忙しい中、家で仕事をしていました。

「尚人様…。最後にご奉仕させて…」

麻美は言いました。

「バカいうなよ…。麻美、もういんだよ。もう十分尽くしてもらったよ… もういいから」

麻美はそれでも、食い下がります。

「だって6月だもん…。今年の感謝祭はまだしてないもん」

「・・・・・・わかったよ。じゃあ支度して待ってて。1時間だけ、事務所に行かなきゃならないんだ。すぐ戻ってくるよ」

僕は、そういって一旦、事務所に行きました。事務所でスタッフが心配そうに僕を見つめる中、僕は人目も憚らず、叫びました。

「くそぉぉぉぉおおおお!! 
 こんなときまで俺はSじゃなきゃいけないのかよ!」


俺が何をした? いや麻美が何をした? ふたりが享楽的にSMをした、その報いなのか?ふざけるなよ! 俺達は何も悪くない、なんでこんな目にあわなきゃならないんだ!
最愛の人を失った誰もがきっとそう思うに違いない憤りを僕も感じました。

ふと、ある旧約聖書の中の話を思い出しました。ヨブ記です。

簡単に説明しましょう。

ある高潔で信仰深いヨブという男の物語です。ある日、天で神とサタンがこのヨブのことについて議論します。サタンはいいます。

「あのヨブが神を崇め奉っているのは、彼が非常に恵まれていて、その恩恵を維持したいためだ。もしあのヨブが不幸になれば、その信仰心は失われて神を恨むことになるはずだ」

神はそんなことはないあの男はちゃんと信仰の本質を理解している。といいます。そこでサタンは

「なら、あの男を不幸にしてみよう」

といって神もそれを承諾します。そしてその後、ヨブにはありとあらゆる災難、不幸が降りかかっていきます。最後は自身も死に至る病に冒されてしまいます。この先の話はちょっと複雑で、この場でどうこうできるものではないので割愛しますが、最終的に、ヨブは神という存在の大きさに触れ、より信仰を強固なものにしていくという物語です。


僕は若い頃、このヨブ記に惹かれました。この話は僕のような不良クリスチャンでも、その話の大きさ、宗教というものの価値、そして信仰というものの奥深さを充分に感じさせてくれるものだったのです。でも、僕はヨブではなかった。もちろん最初から高潔でも信心深くもなかったのですが、この時は、思いました。

大体、神が悪魔にそそのかされて人間を不幸にしてんじゃねえよ! なに神と悪魔がつるんで茶飲み話みたいに話てんだよ! ふざけるな!


ヨブ記;あんまりいい加減なことを書いても、一応クリスチャンとして良識を疑われますので、もっと詳しく知りたい人のためにリンクを。

●松岡正剛の千夜千冊『ヨブ記』旧約聖書
googleで僕が検索し、読んでみた中でこの方のレビューというか解説が一番、一般の方にはいいテキストだと思いました。ヨブ記の物語の深遠さを余すことなく読む人に伝えていると思います。

●ヨブ物語 Index
より詳しく知りたい方はこちら。ヨブ記の全文が日本語口語訳で解説と一緒に読むことが出来ます。

しかし… このサイトでこんなインフォメーションして意味があるのかな…。ここから飛んでいったことを知ったらきっと驚くでしょうねw



ひとしきり、神に悪態をついたところで、僕はそれでも麻美を天国へ連れていってほしいと祈りました。でも、その後は、信仰とはかけ離れた俗っぽいものにすがりました。僕は怒りを爆発させた後、スタッフに謝り、そしてその一人にいいました。

「この間、バイアグラの撮影したときのサンプルある? 一錠くれ」

たぶん、スタッフは事情を察してくれたのでしょう、なにも言わずに僕にその頃、日本でも手に入るようになり、この間、取材と撮影で使ったED治療薬を渡してくれました。自信がなかった。とてもじゃないけど今の心境で、彼女の愛撫を受けながら勃起することはできないと思いました。それでも僕は、どうしても彼女の愛撫で勃起しなければならなかった。それが僕が彼女を喜ばせてあげらる最後のことだと思ったのです。

バイアグラを飲んで、30分ぐらいしてから家に戻りました。彼女は寝室で待っていました。キレイにお化粧をして…。さすがにお腹が大きくなりセクシーでタイトなものは切れなくなっていましたが、それでもシルクサテンのガウンにセットになったキャミソールで僕を迎えてくれました。

「麻美、キレイだよ…。さあ、僕に奉仕するんだ」

僕らは最後まで僕らでした。僕は麻美をやさしく、そしてSとしてきびしく命令しながら彼女に奉仕をさせ、僕は彼女の乳首とクリトリスをやさしく愛撫し、最後に彼女の口の中で果てました。そしてずっと僕は彼女の髪を撫で、僕は彼女のぬくもりの感じ、彼女はぼくのぬくもりを感じながら、愛してると言葉を交わし熱くて甘いキスをしました。

結局、それから1ヶ月近く彼女は耐えました。そして赤ん坊がNICU(新生児集中治療室)に連れて行かれるのをしっかりと見届けた。



「キミはMだろ、だから俺に近づいたのか?」

そんな言葉から始まったふたりだった。その日のうちに思いつきのように、

「結婚しよう」

と言い、

「ハイ。もちろんです。麻美は尚人様以外には考えられません。いつでもどんなときでもずっと尚人様に御仕えします。御仕えさせてください。」

と誓い合った。

「これは麻美が僕の奴隷妻だってことの“印”であると同時に、僕がずっと麻美の主(あるじ)で、麻美がずっと妻であり奴隷でいる、その関係を一生守るっていう誓いであり、決意そのものなんだ。その“証(あかし)”だ…」

乳首ピアスをふたりの絆の証として着けてやると

「これで私は私になれた…。麻美は尚人様の奴隷妻です。それがすべてなの…。本当にありがとうございました。これは私の宝物です。これは麻美が麻美でいる証です」

と泣いて喜んだ。彼女はずっとその誓いを守ってきた。


僕の甘ったるくてかわいい妻であり、
超セクシー美女妻で奴隷妻、
そして女神だった女の名前は麻美、

その愛の中で生まれた
その娘の名は花梨(かりん)。
僕の家族、ボクの居場所だ。


その2日後、麻美は逝った。そしてその翌日、花梨も…。

親孝行な娘だった。母親より先に逝かず、生きている姿だけを見せた。父親に泣き喚くこともせず、反抗もしなかった。


■命令という名の約束

遺体を一旦、引き取って寝室に寝かせました。通夜の前日、葬儀社が遺体を運び出す前に僕たちは最後のプレイをしなければならなかった。それが僕が麻美に課した最後の命令であり、約束だった。もちろん、そこに性的興奮があるわけでもない。それでもこれは、やらないわけにいかなかった。僕はSとしてMの麻美を愛した。Mの麻美は、Sの僕を愛してくれた。そんなふたりにとって、これは絶対にやらなければならない最後の儀式だったのです。

僕は、白いシルク製のネグリジェのような胸の谷間がきれいに見えるワンピース姿の麻美に語り掛けました。麻美は本当にギリシャ神話の女神のようでした。

「麻美、ピアスをつけるよ。ちゃんとつけたまま天国へ行ってくれな…。いいか良く聞くんだよ。金の融解温度は約1064℃、ルビーの融点は2000℃だ…。でも、…でも焼き場で麻美を焼く温度は、たった900℃なんだって…。

何でだよ…融けないよ…、融けないよな…、
……それじゃ融けないよ…、
ピアス持ってってもらえないよ。くそぉ…」


僕は、世界で一番、みっともなくて、情けないご主人様でした。泣きじゃくりながら、命令にならない命令を麻美にし続けます…。

「でも、持っていってよ…、天国でこれつけて待っててよ…。融かしてよ…、ピアス融かしてよ、俺は必ず行くから…。必ず麻美のところに行くから、つけて待っててくれよ。もし忘れたら、焼き場でみんなにピアスつけてたの、ばれちゃうぞ…。羞恥プレイになっちゃうぞ…。麻美はいままで、僕の命令、みんなちゃんとやり遂げたもんな…。できるよな… 麻美ならできるよな…。持ってってよ! お願いだよ! これつけたまま俺を待っててよ… 麻美ぃ……」

露(あらわ)になった麻美の乳房に、ボタボタ涙が落ちて、血の気のない白い身体に跡を付けていきます。僕は5分ぐらい、麻美の冷たい身体にしがみつくように抱きしめたまま、泣きじゃくっていました。そして、泣き止むと

「いくよ…。痛くないようにするからね…」

と麻美に声をかけ、太目の針をライターの火で炙り、麻美の乳首を痛みを和らげるよう氷で冷やしてから、針を刺しました。もちろんこんな手順は、今の麻美に必要ないことはわかっていました。それでも彼女が

「麻美は必ず戻ります。今度、麻美にピアスをするときは、絶対尚人様にやっていただきます。それが私の幸せです。…お願いします」

と望んだ奴隷としての証、というよりふたりの絆の証です。僕はできる限りのことをしたかった。正直言って、痛み系のプレイが得意ではない僕には、針を通すとき、指先にちょっと嫌な感触がありました。それでもその開いた穴にピアスを通してやると、僕は少しだけ、幸せな気持ちになった。両乳首に以前のようにピアスをつけた麻美を見ると、僕の、僕だけの麻美が戻ってきたような気がしたのです。

「麻美、ちゃんとできたぞ…。痛くなかったか? これで元通り、麻美はずっと僕の甘ったれたかわいい妻で、超セクシー美女妻で、奴隷妻だよ。良かったな…」

僕はしばらく彼女の頭を撫でて、ずっとふたりの思い出話をしていました。最初の命令、ホテルでの濃密な時間、オフィスでの奉仕調教、カミングアウトプレイ等々。もちろんSMとは関係のないふたりの日常の思い出もたくさんありました。

そしてしばらくすると葬儀社だろうチャイムの音が聞こえ、僕は麻美のおでこにキスをして部屋を出ました…。

■虚空

麻美と花梨の通夜と葬式は、教会で粛々と行われました。この頃、僕はもう涙も枯れ、訪れてくれた人に笑顔で麻美の思い出話をしたり、麻美のご両親を労(いた)わる喪主としての行動を取れていた様に思います。そして火葬場で、彼女が焼かれるのを待っているときに、ふとピアスのことを思い出します。

「ピアス、どうしよう…」

いくら、麻美でも科学で実証された融点を覆すことなどできないことは解っていました。なので、残ってしまうだろうピアスをどうするかを漠然と考えたのです。そのまま一緒に埋めてしまうか…、麻美のご両親が許してくれれば、ふたりの希望通り海でピアスも一緒に散骨するか、手元に置いておくか…。

2時間後、焼き場で骨になった麻美を見ると、大きな喪失感が押し寄せてきました。もう僕の愛した麻美の姿はどこにもありませんでした。そこにはかつて麻美だった、ただ幾つかの白い骨と灰があるだけです。そして奇跡は起こらず、そこにはふたつのリング状のピアスと、バーべル型のピアスが一緒に残っていた。表面は熱で酸化したのか、黒くくすんでいてあまり金属という感じはしなかった。誰の目も気にならなかった。僕は焼き場のマナーを無視して、当たり前のように、それを直接手に取り、握り締め、泣き出した。そして自分のポケットに入れ、大きくため息をついたのです。その時僕は、有り得ない事が起こることを本気で願っていた自分に気がついたのです。

すべてが終わり焼き場の外に出ると、自分の気分とは不釣合いの晴天の午後の日差しがまぶしくて不快でした。こういうとき、人はなぜか、相手が空の上のほうに居ると思うようです。

「バカだなぁ 麻美、ちゃんと持っていけって言ったのに… 麻美にとって一番大事なものなんだろ? しょうがないなぁ…。俺が預かっておくよ。…いつでもいいから、取りに来てくれていいんだぞ」

ただの未練がましい自分の行為を麻美の失敗に責任転嫁するような言葉を心の中でつぶやきながら、僕は空を見上げました。そこに麻美はいなかった。ただ虚しく青い空が広がっているだけでした。





~エピローグ~ 


■天国からの手紙

「うわぁ~ お姉ちゃんの服って、なんかセクシーなのばっかり! これ尚人さんの趣味?」

葬式から2週間ぐらいたった週末、麻美の妹・香奈が僕のところを訪ねてきました。その3日前ぐらいに電話してきた彼女に「麻美の服とか靴、もしよかったら貰ってくれ」と言ってあったのです。僕は二人の秘め事に使っていた服や道具とは別に、まあ、これくらいなら問題ないだろうと思ったワードローブを義妹のために分けておいたのです。ですが、それでも彼女はその服を見て驚いていました。

「俺は、麻美に俺の前ではいつもセクシーできれいでオンナを感じさせて欲しいって言ったんだ。そうしたらキミのお姉さんは、僕のためにいつも、ほんとうにいつもセクシーでキレイな女性でいてくれた。僕はこの6年間、ずっと麻美にドキドキしながら、ほんとうに幸せに暮らしていたんだよ」

僕は、香奈にいかに麻美が僕のためにオンナでいてくれたか、それだけを伝えた。

「…お姉ちゃん、ドMだったもんね~。いつも尚人様は私の大切なご主人様なの!ってノロケていたもんね~。尚人さんSなんでしょ? 優しそうなのに…。でも頼れて引っ張っていく感じもあるし、甘えたくなっちゃうのかなぁ…。なんかお姉ちゃんの気持ちわかるな…。…きっと私もMッ気あるのよ…。お姉ちゃんどんなふうだったの?

なんて、どこまで本気なのか、どこまで知っていていっているのか、わからないようなことを言って僕の反応を探るような視線を送ってきます。その態度が不快だった。

(なんだこの女、俺を試すなんて10年早いんだよ…)

「優しそうじゃなくて、俺は優しいよ。キミが本当にMッ気があって、本気で聞いているなら、いずれ話してやるよ。キミにとってもたった一人のお姉ちゃんだったんだからな…。でも興味本位なら止めておけ…。俺のことをSだと思っているなら、その前で軽々しくMッ気があるなんていうな。それにおとうさんたちは、知っているのか? へんなこと言ってないだろうな?」

僕は彼女をちょっと恫喝するようなキツイ目線でストレートに返答をした。駆け引きなんかする気分じゃなかった。

「ごめんなさい…。そんなつもりじゃないの…。本当にごめんなさい。ふたりがどれだけ愛し合ってたかわかってるの。そんなふたりに、私憧れてたの、お姉ちゃんがうらやましかった…。お姉ちゃんの日記ちょっと読んだことがあるし、なんとなくお姉ちゃんもわたしに言ってたの…。でも誰にもいってない」

(なんなんだ、俺の態度は…。俺はなんでこんなに余裕なくしてるんだ。この子は何も悪くないのに…。)

ちょっと怯えて、申し訳なさそうに僕を見る彼女に、僕は自分の愚かさを恥じました。

「悪い。俺が悪かったよ。ちゃんと話してあげる。でも今日は勘弁してくれ…。それに俺はもうSじゃないよ。SMはもうしない。コーヒー飲むだろ? 今淹れてやる。気に入ったの持ってっていいからな…」

僕は立ち上がり、床に服を広げて、その中にチョコンと座っている義妹の頭をクシャクシャと撫でて、キッチンに向かった。

2時間ほど、香奈は麻美の服を自分の肩に合わせたり、試着したりしながら、僕とおしゃべりを楽しんだ。彼女は僕と出逢う前の麻美の話をしてくれたり、僕は麻美の料理がいかにダメだったか…なんてことをとりとめもなく楽しく話した。麻美の服を着た義妹に、時に麻美を感じてドキッとしたり、時にその違いを感じて落胆したり、僕は、義妹の中に、麻美を探している自分を感じました。帰り際、マンションの玄関まで、たくさんの紙袋を運ぶのを手伝いながらふたりで降りていくと、彼女が僕を見つめたまま黙ってしまった。

「どうした? 残りはダンボールにつめて、宅配便で送ってやるよ」
「…ううん、また来る。いいでしょ?」
「まあ、かまわないけど…」

彼女は紙袋をロビーの床に置くと、遠慮がちに、ゆっくりと僕の胸にもたれかかってきました。

「寂しい…ね。尚人さんも寂しいでしょ? そんな時、一緒に居てくれますか? 尚人さんも寂しくて辛いとき、私に言ってくれませんか? 私、来ますよ。そんなときは一緒に…」

「そんなときは、ふたりでパーッと酒でも飲んで騒ごうか?(笑)」

僕ははぐらかすように、陽気に応えました。彼女の言葉は最後まで聞いてはいけない気がしました。普段と違い弱っている時の男に対して、女性がある種の優しさを示すときの、なんというか強烈な母性とでもいうのか、捨て身の献身的行動とでもいうのか、その類の危険なものを感じたのです。それが不謹慎であるとか、不快であるとか、そういうことではなく、彼女の言葉を最後まで聞いてしまうと、そこに飲み込まれていってしまうような自分の弱さを感じていたからです。

「……。尚人さん、お酒嫌いなくせに…。」

彼女は明らかに、はぐらかされたということに不満があるという意思表示も込めて、それでも僕の意図を汲んでくれて、やさしく、ちょっと甘えた感じの口調で応えてくれました。そんなところにも僕は麻美に通じるものを感じて、余計に心が痛みました。僕は自分の胸で顔を俯かせたままの彼女を、やさしく抱きしめ、頭を撫でました。香奈のぬくもりは、僕がひさしぶりに感じる女のぬくもりでした。彼女の髪からは甘い香りがして、彼女をこのまま、ずっと抱きしめていたい、そんな風に思わずにはいられませんでした。

「香奈ちゃん、ありがとうね。でも大丈夫。乗り越えられるよ。ふたりでがんばろうな」

そう言って、彼女を引き剥がし、無理矢理の笑顔を作りました。まあちょっと違うけど、心境は「カリオストロの城」のラストシーンでルパンがクラリスに別れを告げたときのような感じです(笑)。すると彼女は、照れくさそうに微笑を返し、言いました。

「ほんとうは、渡さないほうがいいと思ったんだけど、お姉ちゃんの最後の頼みだから…。」

といって、バッグから一枚のCD-Rを取り出して僕に差し出します。

「お姉ちゃんが亡くなる1週間ぐらい前にメールが来たの…。私が死んでひと月経ったら尚人さんに渡して欲しい… そう書いてあった。尚人さんにこれを渡したら、尚人さん、ずっとお姉ちゃんのことひきずって、苦しむんじゃないか…、そんな気がしてずっと渡すかどうか迷ってたんです。中は読んでないです。尚人さんにしかわからないパスワードでプロテクトされているみたいです。

尚人さん、大丈夫ですか? 渡しても…。 引きずられて変なこと考えたりしないですよね?」

「くれ…」

一言、それだけを言って彼女の手からCD-Rを奪い取った。

(冗談じゃない、そんなもんがあるなら、何故もっと早く渡さない…)

内心、動揺していた。麻美が僕に残した言葉があるなら、一刻も早くそれを読みたい。その瞬間、僕はこの日、香奈に感じていた不思議な甘い気持ちも一気に消え去り、麻美への想いだけが心の中を駆け巡っていました。それでも、なんとか香奈の前で平静を保ち、別れを告げて、彼女を見送ることができました。

すぐに部屋に戻り、CD-RをPCにセットして、ファイルを探します。“パスワードは24桁.rar”というアーカイブファイルがそこにはありました。

(見くびられたものだ…、どうせなら100桁ぐらいにしても大丈夫なのに…)

僕はフッと笑いすぐにキーボードにパスワードを打ち込んでいきます。

314159265358979323846264 

円周率です。以前書きましたが、彼女は僕の円周率記憶癖を良く知っていたので、そんなことだろうと思いました。ファイルを解凍して出てきたのは、htmlファイルでした。ファイル名は、

“天国の麻美から尚人様へ.html”

以下、その全文です。

尚人様!

麻美です!
尚人様の甘ったるくてかわいい妻で
超セクシー美女妻で
奴隷妻の
麻美で~す。

今、天国にいます!
ゴメンね。
本当はまだだけどそういうことにしておいてね。
麻美も、そう思うほうが気が楽だし
実際、尚人様がこれを読んできるときは
本当に天国のはずだから…。

尚人様にお手紙するのはちょっと怖いな…
だから、いままではほとんどしたことがないわね。
だって、麻美の文章、尚人様から見たら、
きっとダメ出しされちゃいそうだし…、
お手和やらかにね!

尚人様、
私は今、天国で尚人様に逢える日まで
ちゃんと尚人様に愛していただけるように
心と身体を磨いて暮らしています。
今、すごく幸せです。
だから、安心してね。
ここと尚人様のいる世界では
ちょっと時間の流れ方が違うみたい…
だから、あんまり、急いで麻美のところに来なくても
大丈夫よ。
尚人様は尚人様の世界で生きてもいいのよ。
大丈夫、麻美はいつまでも
尚人様に愛されたときの
美貌とスタイルを維持しておきます!!

それに、ほら、ちゃんと
乳首にピアスも戻ったよ!
ありがとうね。
尚人様なら、ぜったいピアスをつけて
天国に送り出してくれると思ってたんだ!
痛くなかったよ。心配しないでね。
とっても気持ちよかった。
イッチャった! あれ? 逝っちゃったかな(^^;)
なんてね(笑) ←ココ笑うところよ!
やっぱり麻美は、尚人様にいただいた
このピアスをしてないとダメよね。
これで、麻美は麻美でいられるの…
ありがとう。

尚人様、泣かないでね、悲しまないでね
麻美は、尚人様の幸せに貢献できないと
とっても辛いのです。

私は尚人様のおかげで
ほんと~~~~に!
幸せな人生を全うする事が出来ました。
尚人様に出逢う前の私はなんだったんだろう・・・。
それくらい私の人生は尚人様が全てだった。
そのせいで尚人様にはいろいろご迷惑お掛けいたしました。

尚人様はすごく優しくて、
こんな私に、いっぱい幸せをくれたでしょ?
おかげで、普通の恋愛や普通の女の幸せも
たくさん、味わうことが出来ました。

ありがとう…。
愛してくれてありがとう…
いっぱい一緒にいてくれてありがとう…
いっぱい麻美を使ってくれてありがとう…
いっぱい命令してくれてありがとう…
いっぱいドキドキさせてくれてありがとう…
いっぱい感じさせてくれてありがとう…
麻美をしあわせにしてくれてありがとう…

尚人様には、本当にいっぱいのありがとうがあるのに
ごめんね…。
麻美はちゃんと尚人様に返せなかった…
だから、そのことで尚人様をずっと悩ませちゃったね。

でもね、それはしょうがないの…。
麻美のせいじゃないのよ。
尚人様に、やさしくされて、愛されて
デートでエスコートされて
家で一緒に映画を見て
寄り添って
尚人様のぬくもりを感じていると
そして尚人様に抱かれると
それだけで麻美は
幸せで胸がいっぱいになって
キューンとすると
もう、奴隷になっちゃうの…
ああ~尚人様~!私のご主人様~!って(^^;)
だから、尚人様のせいなの!

尚人様のやさしい愛情を
奴隷になることでしか返せなかった麻美を許してね

尚人様…。悲しまないでね。
泣かないでね。
大丈夫よ・・・。尚人様ならきっとまた幸せを見つけられる。

そして尚人様は、麻美にしてくれたように
これからも、きっと誰かを幸せにしていく人
それはわかっているの・・・。
くやしいけど、それはしょうがないもんね。
でも、いつか私のところに戻ってきてね。
私のこと、一番に考えてね!
私より、素敵な人とは付き合わないでね!
これはちょっとずうずうしいかな(^^;)

でも、本当のこというと
麻美は自信があるの、エヘヘ
きっと尚人様は私のことが一番好きよね?(^^;)
私よりいいオンナなんて、いないわよね?(^^;)
やっぱり、わたしナルシストかしら・・・
まあ、いいわ!
だから、どんな人とつきあっても
許してあげる。
みんなを幸せにしてあげてね!

でもひとつだけお願いしていい?

私の写真とかビデオとか
いっぱいあるでしょ?
いままでのように…これからも
私を愛して…
だから、ときどきでいいから、
私を見て、私で感じて・・・
私を使ってエッチして・・・ね
これからもずっと麻美を使って…
ずっと麻美を尚人様の道具として愛して…。
麻美はこれからも尚人様のものです。





貴方が私のすべてだった・・・

貴方のしもべ、麻美


p.s
花梨のこと・・・。ごめんね。




■イル・デ・パン

麻美からの手紙を読んで、3週間後、僕はニューカレドニアのイル・デ・パンのビーチにひとりでいた。オフシーズンの人気のないビーチは、とても静かで、幻想的でした。なんだかこの世界に自分だけが生き残っているような気分になります。こんな自分の行動を感傷的過ぎると思わなくもなかったけど、ここしかなかった。ここ以外の場所では思い切ることができなかったのです。麻美のご両親には反対され、僕は仕方なく遺骨の半分をご両親に渡して彼女の実家の側にお墓を作って頂く事にして、残りを持ち、ニューカレドニアへ僕は旅立ち、静かなこの海へとたどり着きました。

麻美が天国でピアスを着けていると語った以上、僕はそれを信じることにした。これまで通り、麻美の言葉は、すべてそのままの意味でストレートに僕の心に届いてきました。今回もそうです。今、僕のこの手に握られている金属と輝石の塊には、なんの意味もない、これは麻美に届いたものの残渣にすぎない、ピアスは麻美の身体と一緒に炎の中、天に昇って行ったのだ。だからもうこれは必要ないものだと自分に言い聞かせました。僕はしばらくこの幻想的な風景を眺めた後、エメラルドグリーンの海へ麻美の遺灰を半分だけ撒くと、残りをポットに入れたカバへ注いだ。そして握っていたピアスの残渣に一度、口づけをすると、思いっきり海の中に放り投げました。イル・デ・パンの静かな海に三つの小さな波紋が広がってそれはすぐに消えました。そして僕は白い砂の上に座り込むと、この世で最もまずい飲み物で、麻美と花梨の遺灰を一気に飲み込みました。

(麻美……。そっちで待ってろ。それまでは俺の身体の一部となって、俺の中で生きろ)

急激に飲んだカバのせいか、僕は仰向けに倒れた。そして、矛盾したふたつの命令(想い)を同時に口にしたことに思い至って,可笑しくなった。

「ハハハハ………どっちだよ(笑)。」

僕は声に出して笑い、目を閉じました。耳に波の音がだけが響いている。僕は心地よい酔いの中にいた。

イル・デ・パン


【僕の愛したM女たち 麻美篇  了】




■麻美篇を書き終えて…

これで、僕と麻美の物語はお終いです。長い文章にお付き合いいただきましてありがとうございました。ここまでの文字数はなんと14万字。これは書式スタイルにもよりますが、だいたい250~300ページの文庫本ぐらいの量です! いやぁ~まさか自分でもこんなに長くなるとは・・・。しかもほぼひと月かかりました。昨年は麻美が亡くなって10年でした。この10年間、これほど集中して麻美のことを思い出し、考えたことはありませんでした。というよりも忘れることなどはなかったので、思い出す必要もなかった。この物語を読んでいただいた読者の方の多くが感じ予想しているでしょうが、生きた麻美との物語はこれで終わりですが、この後も、僕は亡霊となった麻美に付きまとわれます。あるときは幸せな思い出として、あるときは新しい恋愛の障害として・・・。

今回、訳あって、こういう形で自分の恋愛遍歴、SM遍歴を文章にしていくために、かなりひさしぶりに自分の日記や麻美の日記を詳細に読み返しました。改めてこの作業の中で思ったのは、この僕と麻美の恋愛、そしてSMとはどういうものだったのか・・・ということでした。僕は麻美への愛情には自信がありましたし、麻美が僕を愛してくれていることに対してもまったく疑問を持ったことはありませんでした。でもSとしてMの麻美を満足させるだけのことをしてやれたのか、ということにはずっと疑問を抱いていました。この麻美篇の中でも度々触れてきたように、麻美は非常に強い奴隷願望と被虐願望を持った女性でした。もっともっとハードに過激なものを求めていたのではないか・・・ずっとそのことが頭にありました。ヘタレSでどちらかというとソフトな嗜好の僕には、これ以上のプレイはできませんでしたが、もっと別のS男性と麻美が知り合うことができたなら、麻美はもっと満足できたのではないか・・・と、どうしても考えてしまうわけです。ただ、それでも出会った頃、とんでもない被虐的な妄想の中にいた麻美が、死ぬ間際、僕への手紙を書きながら、幸せそうに天国での生活というか心境を想像して旅立っていったことが麻美の答えだとするならば、僕のやってきたことは間違っていなかったのかな・・・と自分を慰めたりもします。

ただ誤解しないでいただきたいのは、もし、この話をある種、美しい物語として感じてくださる読者の方がいるとするならば、それは結果的にこの物語が“麻美の死”によって完成された物語であるため…、それゆえの美しさを感じるのだと思うのです。“死”はある意味、物語においては甘美な麻薬です。僕はこの麻美との恋愛を“麻美の死”によって美しく飾り立てたいとは思いません。僕はこのことについてはこう考えています。僕たちは、どこかその関係を永遠なものとしたいと考えていた。それが不可能なことはわかっていたのに…。今回、最終章の冒頭に書いたように子供ができ、ふたりが歳を重ねていく中で、ふたりの関係はこの後、どんどん変わっていくことになるはずでした。そのことにふたりとも少し怯えていたといってもいいでしょう。天がその願いを聞き入れてくれたのか、あるいはそんな不埒なことを考えた罰なのか、結果的に“麻美の死”によってふたりの願いは叶い、ふたりのSM的生活、愛情は純粋に完結する結果となりました。確かにそうです。でも、どんなにふたりが変わろうと、どんなにそこに理想と違うものが待っていようと、僕は麻美と一緒に生きていきたかった…、麻美もきっと僕と生きていたかったと思うのです。僕は愛に理想や純粋さは求めません。現実の中でこそ輝くものだと、今でも信じています。それがこの後、僕が苦悩しながらも歩いてきた道でした。そのあたりをご理解いただけたら幸いです。

ちなみに僕は“セカチュー”が大嫌い!(笑)。どんなに似ていると思っても、「似ているね」とか感想を言うのだけはやめて下さいね(笑)。あれが発表されたとき、ほんとにふざけるな!って思いましたから…。フィクションで安易にああいうもの書くバカがまだいるのか!って、オマエに愛と死の何がわかる!って本気で思いました。まあ、今はそんなこと思ってないんですけど、タイミングが悪すぎました。まあ聞き流してください、冗談です。300万部を超える日本一の大ベストセラーに対抗しようとは思いません(笑)。どんな感想であれ、本当にうれしいです。ぜひ、この物語の感想をお聞かせください。

さて、あとがきにしては長くなってしまいました。悪い癖です。最後にこの麻美篇を連載させていただく中で、たくさんの方に「麻美さん、素敵ですね」「麻美さん、あこがれます」と麻美に対してたくさんの支持をいただき、ある意味麻美を愛していただきました。本当にありがとうございます。麻美もきっと、それを知れば喜ぶと思います。なんといってもナルシストでしたからね(笑)。「麻美はセクシーでエッチでかわいいでしょ!」と言うに違いありません。まあ、そういう麻美を支えた僕に対する支持があまりなかったのが癪に障りますが、仕方ありませんヘタレSです(自嘲)。それに、この物語のすぐ後、放浪篇に入れば、ますます僕への支持はなくなっていくと予想していますしね(笑)。それでも、これから登場する数名の麻美とはまた違ったM女性も麻美同様、かわいがっていただけたらと思います。…ですが、なかなか、そうはなりそうもありません。その意味では麻美は最初に登場させるにはインパクトがありすぎるというか、いいオンナすぎるところがありました。それは認めましょう! でもこれから登場する女性たちも僕にとっては、愛情を注ぐにたる、いい子たちでした。麻美とは違って、その普通さも、思い切ることが出来ずに悩む姿も、みなさんとたぶん同じ、等身大のM女性たちです。彼女達への支持もよろしくお願いします。

まだまだ続く、「ぼくの愛したM女たち」ですが、麻美篇終了を期に、読者の皆様への感謝とご挨拶をさせていただきました。ほんとうにありがとうございます。これからもよろしくおねがいします。


2012.1.24 尚人


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お疲れ様でした。
長編大変お疲れ様でした。
とても読みやすく、一気に読んでしまいました^^

麻美編を読んで率直な感想は、尚人さんの文章力と表現力のすごさでした。

美味しい食べ物を食べてもただ「美味しい」と言うだけでは相手になかなか伝わらない。どんなふうに美味しいのかを他人に表現するってとっても難しいんですよね。
麻美さんを語っている尚人さんの文章を読んでいくうちに麻美さんの妖艶でいて可愛らしく素敵な姿が目の前に浮かびあがってくるようでした。
まぁ、その一方で尚人さんのイメージが湧きにくかったけどネ(黒子さんみたい^^;)

私にも文才があればブログ書いてみたいけど、さすがにこんな素敵な構成はできないなぁ・・・

次回作も楽しみにしていますネ♪
りんこ | URL | 2012/01/26/Thu 14:49 [編集]
ありがとう!
恐縮です! 文才… まあ長年のトレーニングの成果かな…。でもまだまだです。

ここでは詳しくはかけませんが、りんこさんはある意味、僕が果たせなかった麻美との未来を実現されている方ですから、ほんとうに憧れますw その意味で楽しんでいただけて感謝です!!
尚人 | URL | 2012/01/26/Thu 14:58 [編集]
はじめまして
偶然、十六夜から飛んで来て、長文を一気に読んでしまいました。
今は、ただ、言葉にならない思いで、涙が止まりません。
これが、ノンフィクションだなんて・・・

その時々の、麻美さんの様子や、尚人さんの気持ちが、痛いほど伝わってくる文章でした。

いろいろ書きたいけれど、読み終えたばかりの今は、しばらく静かに余韻に浸ることにします。

ただ、ひとつだけ、麻美さん、尚人さんに、「亡霊」と言われたら、悲しむんじゃないかな…って思ってしまいました。

またお邪魔させていただきます。
さつき | URL | 2012/02/29/Wed 01:43 [編集]
さつきさま
ありがとうございます。
そうですね・・・。正直言うと亡霊でも・・・、幽霊でも、もうないけど死体でもいいから、僕の前に現れてくれないかな・・・っていう気持ちです。

 十六夜経由ですかぁ・・・ いつかお話させてください。
十六夜、新月 どちらでも 見つけられると思います。逢える日を楽しみにしています。 最近、ブログ更新していませんがもうすこしお待ちください。近々 続編で僕のヘタレSぶりも復活です
尚人 | URL | 2012/02/29/Wed 02:03 [編集]
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| | 2012/03/01/Thu 23:25 [編集]
み○きさま ありがとう!
そうなんですよね・・・w 待機メッセージを読んでここを訪れてくれてありがとうございます。でもそれで、ここを読みふけって、結局話さずじまいの女性たちのなんと多いことか!!(笑)

でもありがとうございます。なにか役に立てたみたいでうれしいです。なので是非! いつかお話しましょう! あっ…でもコメントいただけるのもうれしいです。楽しみにしています。 がんばって これからもいろいろ書いていきます。よろしくお願いします。
尚人 | URL | 2012/03/02/Fri 02:09 [編集]
読みました
たまたまこのサイトに来ました 
今週末彼女と結婚します 彼女の乳首にもピアスがあります
僕が1年前のプロポーズした日につけてもらいました
だからかな すごく感情移入してしまい、一人切なくなってます。
この物語を見て幸せになろうと さらに決意ができました
ありがとうございます。
それが言いたくてコメントしました 

円周率いいですね 終わらない数字 π こんな乳首ピアスつけてみたくなりました

なにか記念のピアスを明日買ってきます。式が終わったら僕の手でつけようと思いました。って自分語りになっちゃいましたね すいません

では
だいすけ | URL | 2012/05/22/Tue 21:15 [編集]
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| | 2015/02/11/Wed 20:57 [編集]
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